Hindemithのメソッドについてpart 2

まず、メソッドという言葉を私は「方法論」という言葉として日本語訳して捉えているという事を書いておく必要があるように思う。
決して「論理」とは異なり、「論理」や「技術」や「経験」を統合し、「実践に堪えるものにしたもの」、と説明しておく。
したがって、その彼の「論理」が正しいか否かではなく、彼の音楽の背景が何により構成されているか?が中心的興味である。

彼のメソッドの基本部分の紹介

大きな特徴は彼は和声を「単なる音響現象が与える印象」としてとらえ、
それまでのメソッドで言われてきたメジャー、マイナーという考えや、ドミナントなどの機能を一切考慮の外に於いたことである。
その代わり、調性は基音の進行の構図によりうかがい知ることができ、 転調も基音の進行によりつくる事ができる、と考えた。
それはメジャーやマイナーであったり、トライトーンの解決という調性の導き方ではなく、重心となるトーナルセンターの変遷により音楽の骨格を作るという事である。

大雑把ではあるけれども彼の方法論を以下にまとめた。

1 : 書かれた旋律に含まれる各インターバルを 検証したさいに、任意に選び出した時間帯のなかで 一番音の親和力が集中する音が根音である。

彼が導き出したインターバルによる音の距離は以下の通り
トーナルセンターが「ド」の場合
ド – ソ – ファ – ラ – ミ – ♭ミ – ♭ラ – レ – ♭シ – ♭レ – シ – ♭ソ( ♯ファ)
←←←近い←←←       →→→→遠い→→→

これの根拠として、彼は倍音列中の根音を含めた6つ目までを考慮にいれ、
[要は低次の倍音列でトライアドの中に収まる次元であり、これより高次は出現する倍音が複雑化していくにしたがい、
音程も曖昧になっていく。よって音程として信頼できる第6次までということらしい。]
その近親性により音程の距離を決めている。
しかし、彼の説明は私にとって腑に落ちるものでは無いので残念ながらこれ以上に突っ込んだこの根拠に対する説明は割愛。

メロディーとハーモニーにおけるインターバルが与える強度についてそうして以下の様にとらえていたようである。
harmonicforce

 

 

 

 

 

[表59 P87 ”Musical Composotion” – Hindemith 参照]

harmonic forceが強いインターバルはトーナルセンターを指す力が強いということでもある。

Melodic force においてはトーナルセンターについてというよりもむしろ、メロディーとしての力についてである。

例えば五度の音程ドとソの音程がメロディー中に含まれていた場合、
それは確実にドがトーナルセンターとなる。旋律中の他の音がどの音であっても上のメロディーの強度表に表したとおり、
その関係において近親のモノが多い音がトーナルセンターとなる。ある種の多数決のようなものであると私は理解している。

2 : 和声においては最低音、 もしくは実際に弾かれた音の中でもコンビネーショントーンにより強調された音である

・ここで、まず、なぜ低音か?という疑問が生まれるが、彼は、低い方から高い方へ向かって
倍音が出ていくため、低い音の方が支配力が強い。よって音世界における重力ともいえる
トーナルな感覚は常に音程として低い方から上へ向かって派生する、と考えた。
[彼は日本語で言う所の「下方倍音列」つまり、いわゆる倍音[根音の上方の音域に発生]の逆の方向にシンメトリーに派生すると考える形而上的音列、
に関して、それを彼の技法に使用することは否定的である。]

・第二にコンビネーショントーンについて
ヒンデミットは和音として音が同時に鳴ったときに、その音程の周波数の差によって、より低い音が聞こえるという経験に基づき、それも考慮に入れた。
これは同時になっている二つの音の周波数の違いが重なった場合、そのズレによって異なった周波数を生み、それが音程を生みだすということである。
[もう少し詳しい説明は下部に書いた”注釈1 –コンビネーショントーンの 理論的な根拠の説明と実例 – ” へ。]

4度、5度の和音が二つ以上重なる和音、 2度や7度が多用されている場合、
オーグメントの和音は、発生するコンビネーショントーンも多様化し複雑化する為、トーナルセンターは不明となる。

3 : またはアクセントや繰り返し、 ロングトーンなどにより強調された音である

トーナルセンターの動きは、「どこからどこまで」と常にハッキリと区切れるものではなく、
曖昧に重なり合って動いている局面も多々ある、
と彼は述べている。その場合、音楽的に強調されている部分がそれを知るのに助けとなる。
[注釈2へ]

補足
また、トライトーンには音の中心地点は生まれないため、 それが解決して重心としてのトーナルが生まれる トライトーンには旋律的、和声的意義が無いため、他の音程との関係により価値がはっきりする。
この場合は、その前後関係で根音の流れが補完される。

7度や9度も2度進行と捉える

[注釈1]
–コンビネーショントーンの 理論的な根拠の説明と実例 —
彼は自身の実際の経験を根拠にそれを言っているが、
実はこの考え方はエレクトロアコースティックの音楽では基礎的な知識の一つで、
この現象の根本的な部分を利用するのは現代では一般的だと思う。

二つの異なる周波数が重なり合ったときにはそのズレている分だけ揺らぎが生じる。
例えば440ヘルツと441ヘルツを重ね合わせた場合、
毎秒1回のうねりが生じる。
そのズレが大きく、その揺れが大きくなったらその揺れが一つの音程となる、という事である。
例えば、440ヘルツに460ヘルツを重ねたら、
毎秒20ヘルツの振動が発生する。

— 実例 —
ソの長三和音の展開形シ[500ヘルツ]、レ[600ヘルツ]、ソ[800ヘルツ]という和音の場合、500ヘルツのシ
の音に600ヘルツのレの音が重なり、その結果、その差である100ヘルツのソの音が
発生、その発声したその100ヘルツのソの音とレの音が干渉しあって400ヘ
ルツのソの音が発生する、その為に実際に弾かれているソの音が一番低い
位置にない場合でも強調されている為、根音となる。

— 身近な例として…–
例えばヘヴィメタル系の音楽でよくある「パワーコード」といわれるもの。
例えば100ヘルツのソの音に150ヘルツのレの音が重なっているとして、
この場合、50ヘルツのソの音が発生していると言える。
これによりパワーコードにすると途端に音が力強くなった用に聞こえる、という事である。

実際に私もバロックアンサンブルの仕事で、もっとも低いミより一音低いレの音を伸ばさならない場合、
それより1オクターブ高いレの音の解放弦に、そのすぐしたのラの音を加える事をする。
そうすると、 実際に弾かれてるレより2オクターブ低いレが出現するため、より曲の場面にあった音響をつくる事ができる。

[注釈2]
時間の尺をミクロに区切るか?マクロに区切るか?で当然調性の捉え方は変わってくるわけで、
例えばマクロに区切った場合は、とある一つの調性として解釈する事は可能である。
しかしながらミクロに区切るとマクロでみた時の調性の外に出て行っている…という事はよくあるパターンであると思う。
ミクロなので、一瞬であり、感覚的には微妙な浮遊感なのだが、こういう事は実は各種の音楽でよく起こっている事だと思う。
それをミクロとマクロの中間の尺で行った場合決定的な調性の浮遊感が生まれるのであろう、と私は考えている。
なので、調性の感覚には時間的な区切り方も考慮に入れる必要があるように思う。